006

巴絵の甘美な夜



・・・・・・・・・・・誘惑の試着室<5>・・・・・・

試着室に入るときに店主が閉じたドアのために、そこは2人だけの密室になった。

天井から噴出す暖気のため汗ばむくらいのその六畳ほどの密室は、

巴絵に近寄った店主のつけている濃厚な香りを増幅した。

「なんていいニオイなんだろう・・・」

巴絵が思わずそう思うほど、それは大人びた夜の雰囲気を醸し出していた。

店主は巴絵が小鼻をヒクっとさせたのを見逃さず、

「この香り、はじめて?」

と巴絵に問いかけた。巴絵はおずおず聞いた。

「はい、なんていう香水ですか?」

「これはゲランのミツコよ。そして香水じゃなくてコロンよ」

言いながら自然な感じで、店主は巴絵の尻たぶをパンティの上からなぞった。

巴絵は尻たぶを撫でられ、びっくりしたように腰を前へ突き出した。

「あなたのヒップには、このパンティは大きいわ。」

巴絵の驚きに頓着せず、店主は言った。

「もっとキッチリ合わせないとアウターに線が出ちゃって見苦しいの。

これ着けたまま修正してみるから、ティッシュはずしていただける?」


店主の見ている前でティッシュを取り出していいのか、ためらう巴絵をしりめに、

「あなた今日はブラも探しにいらしたんでしょ?でしたらブラの試着もしますから上は脱いでくださる?

ブラはご自分で合っているつもりでも、専門家が見たらジャストフィットしてない場合が多いの」

重ねるように店主は言った。

「ブラ取ってきます。上を脱いでおいてくださいね。」

そう言いながら店主はドアを出ていった。


店主が広い試着室を出たあと、巴絵は覚悟を決めたように、急いでシャツのボタンをはずしにかかった。

他人に迷惑をかけてはいけない、という巴絵の生来の優しい心が脱衣を急がせたのだ。

そして巴絵は気づいていなかったが、店主の巧みな言葉の誘導と瀟洒な店の雰囲気に、

そしてミツコの艶麗な香りに巴絵はあきらかにはまっていたのだ。


一度シャツを脱いでブラの背中のホックをはずし、再びシャツを肩にかけるようにした。

さらにためらった後、巴絵はパンティに手を差し入れ、充てていたティッシュを取り去った。

それはさきほど巴絵が湧き出させたシタタリを吸った、他人に見せられない恥ずかしいティッシュだった。

今日歩いてここまで来る間に汚れもし、おそらくは匂いさえ、しているだろう。

もしそのティッシュを広げられたら、恥ずかしさで死んでしまいたいくらいになる。

巴絵はあわてて汚したティッシュを、壁にかけてあるジャケットのポケットにつっこんだ。


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