・・・・・・・・・・・誘惑の試着室<5>・・・・・・
試着室に入るときに店主が閉じたドアのために、そこは2人だけの密室になった。
天井から噴出す暖気のため汗ばむくらいのその六畳ほどの密室は、
巴絵に近寄った店主のつけている濃厚な香りを増幅した。
「なんていいニオイなんだろう・・・」
巴絵が思わずそう思うほど、それは大人びた夜の雰囲気を醸し出していた。
店主は巴絵が小鼻をヒクっとさせたのを見逃さず、
「この香り、はじめて?」
と巴絵に問いかけた。巴絵はおずおず聞いた。
「はい、なんていう香水ですか?」
「これはゲランのミツコよ。そして香水じゃなくてコロンよ」
言いながら自然な感じで、店主は巴絵の尻たぶをパンティの上からなぞった。
巴絵は尻たぶを撫でられ、びっくりしたように腰を前へ突き出した。
「あなたのヒップには、このパンティは大きいわ。」
巴絵の驚きに頓着せず、店主は言った。
「もっとキッチリ合わせないとアウターに線が出ちゃって見苦しいの。
これ着けたまま修正してみるから、ティッシュはずしていただける?」
店主の見ている前でティッシュを取り出していいのか、ためらう巴絵をしりめに、
「あなた今日はブラも探しにいらしたんでしょ?でしたらブラの試着もしますから上は脱いでくださる?
ブラはご自分で合っているつもりでも、専門家が見たらジャストフィットしてない場合が多いの」
重ねるように店主は言った。
「ブラ取ってきます。上を脱いでおいてくださいね。」
そう言いながら店主はドアを出ていった。
店主が広い試着室を出たあと、巴絵は覚悟を決めたように、急いでシャツのボタンをはずしにかかった。
他人に迷惑をかけてはいけない、という巴絵の生来の優しい心が脱衣を急がせたのだ。
そして巴絵は気づいていなかったが、店主の巧みな言葉の誘導と瀟洒な店の雰囲気に、
そしてミツコの艶麗な香りに巴絵はあきらかにはまっていたのだ。
一度シャツを脱いでブラの背中のホックをはずし、再びシャツを肩にかけるようにした。
さらにためらった後、巴絵はパンティに手を差し入れ、充てていたティッシュを取り去った。
それはさきほど巴絵が湧き出させたシタタリを吸った、他人に見せられない恥ずかしいティッシュだった。
今日歩いてここまで来る間に汚れもし、おそらくは匂いさえ、しているだろう。
もしそのティッシュを広げられたら、恥ずかしさで死んでしまいたいくらいになる。
巴絵はあわてて汚したティッシュを、壁にかけてあるジャケットのポケットにつっこんだ。
次を読む
前のページに戻る
巴絵トップに戻る